2021年04月20日
建物品質
品質に対する価値観と取り組み2 〜 住宅の品質を高める為に必要な事 〜

 

前の記事「品質に対する価値観と取り組み1 〜 住宅性能表示制度を使わない理由 〜」の続きです。

 

今の住宅はほとんどの材料が精度が高く性能が均一な工業製品です。

 

しかし、材料を使いそれを施工するのは人間です。

 

年齢も経験も異なるたくさんの職人さんが1つの家を手造りで造ります。

 

人間ですから、ミスや忘れなどのエラーが発生する可能性を否定する事はできません。

 

最も精度にバラツキが生じるのは施工なのです。

 

施工の精度を高める事が、住宅の品質を高める事に繋がると考えています。

 

 

とにかく検査を徹底する。

 

住宅がそのような性質の商品である事を前提にすると、品質を高める為には、また、品質をより均一なものとする為には、検査を徹底するしかない・・というのが結論です。

 

結局のところ、高品質な家は高品質な施工を積み重ねる事でしか実現できないのです。

 

魔法のような工法や材料はありません。

 

ミキプランニングが家を造る時に力を入れているのが施工品質とそれを向上させる為の検査です。

 

では、どんな検査をしているのか。それをご説明する前に、住宅における一般的な検査についてお話しします。

 

 

あまりにも不十分な義務検査

 

どんな家でも検査を受けています。住宅には義務付けられている検査があるからです。

 

ひとつは、建築基準法に基づく建築確認検査機関による中間検査。

 

「構造金物」が検査の対象です。

 

もうひとつは、住宅瑕疵担保責任保険の検査。

 

新築住宅の売主は、構造の欠陥や雨漏りなどが起こった場合、引き渡しから10年間補償する義務があります。

 

その補償が10年間確実に行われる為の手段を講じなければいけません。

 

その方法が「瑕疵担保責任保険への加入」です。

 

もうひとつ、「供託金の供託」という方法もあるのですが、ほとんどの会社が「瑕疵担保責任保険への加入」を選択しています。

 

受けない方法もありますが、ほぼ「義務」と言って過言ではないほとんどの建物で受けられている検査です。

 

「基礎の鉄筋」と「構造金物」が検査の対象です。

 

どちらの検査にも共通する事。

 

それは、1回あたり約20分の簡易的な検査だという事。

 

20分の検査では建物を広く検査する事はできません。

 

検査されるのは一部分の箇所のみです。

 

その内容は、義務の検査だけに、義務的な検査という言葉がぴったりです。

 

そもそもこれらは、建物の品質を向上させる事を目的とした検査ではないのです。

 

もうひとつの共通点は、肝心の工程が検査されない事。

 

それは、「防水工事」と「断熱工事」です。

 

詳しくは後ほど書きますが、建物の品質を向上させる事を目的とした検査であれば、「防水」と「断熱」を検査しない事はあり得ません。

 

次は、ミキプランニングが採用している任意の検査では義務の検査とどう違うのか・・という事をお話しします。

 

 

1工程あたり90分〜120分の時間をかけて検査する。

 

 

ミキプランニングがお願いしている施工検査会社では、1回の検査につき90分〜120分かけてより広い範囲を検査します。

 

それが検査をお願いしている大きな理由のひとつです。

 

20分では、広い範囲を検査する事はできません。

 

どうしても一部分を抽出したスポット的な検査になってしまいます。

 

正確な動作を繰り返すロボットが造る家なら、ある一部分が正確に出来ていれば他の箇所もOKという判断もできるでしょう。

 

しかし、造っているのは人間です。

 

こちらがOKでもあちらがNGという可能性をどうして排除できるでしょうか。

 

その可能性がある事を前提として品質管理を考えるのなら、より広い範囲を検査できる体制でなければいけないし、より広い範囲を検査する事が品質の向上に結びつきます。

 

義務検査が品質の向上を目的とした検査ではないとはいえ、ほんのごく一部分を抜き出して検査するという方式は、本来住宅のような人の手で造られる商品には不向きだと思うのです。

 

 

住宅の品質において、防水と断熱の検査がいかに重要か。

 

ミキプランニングが外部の施工検査会社に任意で検査をお願いしているもうひとつの理由は、「断熱と防水の検査を充実する為」です。

 

木造住宅の品質や耐久性を考える上で、「木材が乾燥している状態が保たれている事」はものすごく大切な事です。

 

木材の腐食は水分や湿気に長時間晒された状態が続く事が原因です。

 

湿った環境は、シロアリの被害にも遭いやすくなります。

 

防水工事の施工品質が低ければ、雨水が直接壁の中に進入してしまいます。

 

断熱工事の施工品質が低ければ、壁の中で結露を起こす原因を作ってしまうかもしれません。

 

外壁内の通気を妨げてしまうような施工がされていれば、壁内の湿気を逃す機能が働かなくなってしまうかもしれません。

 

つまり、「防水」と「断熱」の施工品質は、木造住宅の品質に直結する工程と言っても過言ではありません。

 

残念ながら、今の制度では防水の検査も断熱の検査も義務ではありません。

 

これらの工程を検査せずに家を建てる事は、個人的にはあり得ない事だと思っています。

 

 

検査内容と結果が写真に残る意義。

 

義務検査では検査の写真は記録に残りません。

 

ミキプランニングがお願いしている検査では、検査箇所の写真が検査員のコメントと共に製本されて記録に残ります。

 

その記録は、完成内覧会では閲覧できるようにしており、また、お引き渡し時にはお客様にお渡ししています。

 

中古住宅として建物を売却する時、 どんな施工で建てられた家なのか記録に残っている事は買主にとっても安心です。

 

信頼性が高い物件は、競合物件と比べて選ばれる可能性が高くなります。

 

この検査を受ける事・それが記録に残る事は、建物の資産価値を維持する上でもとても有意義な事だと思うのです。 

 

株式会社ミキプランニング

代表取締役 佐藤 幹展

 

2021年04月18日
建物品質
品質に対する価値観と取り組み1 〜 住宅性能表示制度を使わない理由 〜

 

「等級 = 品質」という考え方はおかしい。

 

家を見学すると、営業担当の人から・・

 

「○等級を取得している品質の高い家です。」

 

・・・的な話を聞く事も多いでしょう。

 

家探しをしている方もよく見られている「SUUMO」などのポータルサイトでも、等級をアピールする記述はほんとうに多く見られます。

 

しかし、「等級 = 品質」という考え方には個人的に疑問を持っています。

 

すべてが間違っているとは思いませんが、半分くらいはおかしいと思っています。

 

 

等級は性能の違いではなく、仕様の違い。

 

住宅性能評価には2通りの制度があります。

 

現場検査を伴わない「設計性能評価」と現場検査を伴う「建設性能評価」です。

 

「建設性能評価」なら、現場の検査もした上で認定された等級なので、なんだか良さそうに聞こえますね。

 

しかし肝心なのは「どんな検査を行っているか。」です。

 

「建設性能評価」の検査では「等級の基準を満たす申請通りの材料が使われているかどうか」を検査します。

 

申請通りの材料が使われていなければ当然等級通りの性能を発揮する事はできませんから大問題ですが、普通に考えれば申請通りの材料が使われている事は当たりです。

 

ポイントは、この検査は「施工の良し悪し」を検査する為の検査ではない・・という点です。

 

つまり、等級の判定は仕様の違いによって機械的に付与されるものであり、基準を満たす材料を使用していれば、施工のレベルによらず等級は取得できます。

 

等級が高ければ品質が高い家だとは必ずしも言えないのは、まさにこの点です。

 

もちろん、仕様が良くなれば性能は良くなります。

 

ただし、その性能が発揮できるかどうかは、施工もセットで考えなければいけません。

 

住宅性能評価の制度では、施工の良し悪しについては全く考慮されていません。

 

「すべてが間違っているとは思いませんが、半分くらいおかしいと思っている。」・・と書いたのはその為です。

 

 

仕様の違いによる性能の差は、施工品質の違いによって簡単に覆る。

 

下の図は、断熱材の施工状態によって断熱性能がどれくらい変化するのかを調べたものです。

 

 

100mmの厚みの断熱材に対し、100mmの性能を発揮できるのが良い施工状態だとして・・・

 

押し込みすぎの施工では、16%〜54%性能がダウン。

 

隙間がある施工では、33%性能がダウン・・・という調査結果です。

 

断熱材のグレードや厚さを1つ上げる事によって10%ほど性能が向上しますが、その性能差は施工レベルの違いによって簡単に覆ってしまう事がわかります。

 

こんな高品質な断熱材を使っているから断熱性能が高いんです。

 

とか、

 

断熱等級が最高レベルなので、断熱性能が高いです。

 

というようなトークは、半分くらい間違っていると思うのです。

 

実際の断熱性能は、「断熱材の性能」と「施工品質」の両方によって決まります。

 

「耐震金物の施工」についてもまったく同じ事が言えます。

 

これも、日経ホームビルダーが実験データを公開していました。

 

詳しくは別の記事にまとめていますので・・

 

「実験データ 施工精度の違いでここまで品質に差がつく」

 

↑こちらの記事をご覧下さい。

 

 

家づくりはかなりアナログな世界。

経験も年齢も違う職人さん達によって

ひとつひとつの工程を手造りで造られる。

 

住宅で使われている断熱材や構造金物は工業製品ですから、仕様によって性能は一定と言っても良いでしょう。

 

今や、構造用の木材も計算可能な工業製品。

 

最もバラツキが生じるのは施工です。

 

ロボットによって製造ライン上で作られる精密機械であれば、ほぼ一定の組み立て精度で製品を作れます。

 

そのような製品であれば、仕様の差=品質の差・・・と言えますが、住宅は違います。

 

住宅は手造りです。そして、造る職人さんは経験も年齢も様々。

 

悪意を持って家を造る職人さんはいないと思いますが、造ってるのは人ですから、施工の精度や知識は異なります。

 

ミスや忘れなどのエラーが発生する確率もロボットに比べると比較にならない程高いでしょう。

 

前提として、住宅はそのような性質の商品です。

 

つまり、それを前提に品質を考える必要があるという事です。

 

仕様の違いだけで品質を定義したり管理する事はできません。

 

施工の話を抜きにして品質や性能を語る事は本来できないはずです。

 

それを踏まえて、等級制度に対して半分否定的な当社がどのような取り組みをしているのかを次の記事でお話しします。

 

 

なぜこの制度が広く利用されているのか。

 

冒頭でも触れたとおり、今やこの制度を利用した品質の訴求は非常に多く行われています。

 

これだけ世に広まり利用されている理由は何か、主観的な憶測ではありますが個人的に思う事を書きます。

 

一言で言うと、「わかりやすさ」だと思います。

 

説明する側にとっても、説明される側にとってもわかりやすい制度です。

 

住宅の性能を通知表のようにカテゴリーごとにランク付けして表示する事で、まず専門知識を持たない買主にとっては圧倒的にわかりやすいです。

 

ですが、売主にとってもこの「わかりやすさ」はとても重要なのです。

 

一般的には離職率が非常に高いこの業界。住宅営業の世界では営業マンは必ずしも専門家ではありません。

 

自分が在籍していた会社では、1年続いたら長いほうでした。

 

人が入ってもすぐ辞めてしまう業界です。

 

転職して間もない知識や経験が浅い人材を即戦力として活用しなければいけません。

 

住宅の性能についてお墨付きを得られるこの制度を利用すれば、説明が非常にシンプルになります。知識や経験は必要ありません。

 

そして、実際にそれが一番簡単にお客さんの支持を得られる方法なのですから、それは利用されるでしょう。

 

シンプルに良さを伝えなければいけない「広告」を考える上でも非常に便利な制度です。

 

話のわかりやすさや広告映え、マーケティングに関する都合によるものが大きいのだと個人的には考えています。

 

しかし、自分にとってはどうも本質的ではない制度のように感じてしまうのです。

 

次の記事:品質に対する価値観と取り組み2 〜 住宅の品質を高める為に必要な事 〜

株式会社ミキプランニング

代表取締役 佐藤 幹展

 

2013年12月18日
建物品質
「実験データ」 施工精度の違いでここまで品質に差が付く。

 

 

経ホームビルダーという施工者向けの雑誌の実験データに、非常に興味深いものがありました。

 

「施工精度」という視点から、品質・強度を科学的に検証している貴重な資料です。

 

まったく同じ耐震金物を使用していても、

 

「金物の取り付けの位置が間違っていたら?」

「金物の取り付けに使用する釘の本数が不足していたら?」

「金物の取り付けに使用する釘の種類が異なっていたら?」

 

すなわち、施工の精度が不十分だったら、建物の強度はいったいどうなってしまうのか??

 

結論としては、

「どれかひとつでも欠けていたら」本来の性能を発揮できません。

 

施工の精度が建物の品質に与える影響がいかに大きいか。 

そのことが、実験によって科学的に証明されています。

 

実験1 「釘の長さ」「釘の本数」「取り付け位置」 すべて規定通りで施工された金物。

 

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↑ 柱に対して、上に引き抜く力を与える。これが、規定通りの場合の変形量

 

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↑ 規定通りの取り付けだと、12.16kNの引き抜き耐力を発揮することができました。

 

 

実験2 「釘の本数」「取り付け位置」 は規定通りで、「釘の長さ」のみ規定を満たしていなかった場合。

 

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↑ 金物も大きく変形し、釘も抜け、柱も大きく引き抜かれてしまっています。

 

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↑ 引き抜き耐力は、規定通りの取り付けに比べ、75%程しか発揮できていません。

 

実験3 「釘の長さ」「取り付け位置」 は規定通りで、「釘の本数」が規定を満たしていなかった場合。

 

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↑ 金物が一部破断してしまい、柱も大きく引き抜けてしまっています。

 

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↑ 引き抜き耐力は、規定通りの取り付けに比べ、64%程しか発揮できていません。

 

 実験4 「釘の長さ」「釘の本数」 は規定通りで、金物の「取り付け位置」が不適切だった場合。

 

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↑ 金物の変形は少ないですが、柱は大きく引き抜けています。

 

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↑ 引き抜き耐力そのものは維持できていますが、適切な施工に比べると、柱が大きく引き抜かれてしまっています。

 

 

れらの実験からもわかるように、現場の施工精度が建物の耐震性や品質に与える影響は少なくありません。

 

いくら耐震等級が高い家でも、現場の施工が不適切であれば無意味です。

しかも、耐震等級の制度は、基本的に現場の検査を伴うものではありません。

設計図面上の計算が等級の基本で、現場の施工精度は等級には無関係なのです。

 

いくら地震に強い工法を採用していても、現場の施工が不適切であれば、これも無意味です。

2×4工法は地震に強い工法と言われていますが、

「2×4工法だから」というだけで安心とはとても言えないということです。

その他、「地震に強い○○工法」的な広告表現もすべて同様だと私は考えています。

 

住宅の広告では、そのわかりやすさ故に「等級が3等級!」とか「地震に強い○○工法!」とか、

そのような謳い文句を本当に良く目にしますが、残念ながら、

大原則であるはずの施工の精度がメーカーとお客さんの間で議論されることはあまりないように思えます。

 

住宅は、職人さんがひとつひとつ手作業を積み重ねて造るものである以上、

結局は、現場のひとつひとつの施工精度の積み重ねが住宅の品質になるのだと私は考えています。

 

「広告映えするわかりやすさ」はあまりありませんし、ちょっと専門的なお話にもなってしまいますが、

「本当の意味で良い品質の住宅」を提供する為には、「徹底した現場の施工検査を行う事」しかない

と私は思っています。

 

それが、当社の物件に第三者による施工検査を採用している大きな動機です。

 

上、「実験データ」施工精度の違いによる品質の差 でした!!

 

株式会社ミキプランニング

代表取締役 佐藤 幹展

 

 

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