「等級 = 品質」という考え方はおかしい。
家を見学すると、営業担当の人から・・
「○等級を取得している品質の高い家です。」
・・・的な話を聞く事も多いでしょう。
家探しをしている方もよく見られている「SUUMO」などのポータルサイトでも、等級をアピールする記述はほんとうに多く見られます。
しかし、「等級 = 品質」という考え方には個人的に疑問を持っています。
すべてが間違っているとは思いませんが、半分くらいはおかしいと思っています。
等級は性能の違いではなく、仕様の違い。
住宅性能評価には2通りの制度があります。
現場検査を伴わない「設計性能評価」と現場検査を伴う「建設性能評価」です。
「建設性能評価」なら、現場の検査もした上で認定された等級なので、なんだか良さそうに聞こえますね。
しかし肝心なのは「どんな検査を行っているか。」です。
「建設性能評価」の検査では「等級の基準を満たす申請通りの材料が使われているかどうか」を検査します。
申請通りの材料が使われていなければ当然等級通りの性能を発揮する事はできませんから大問題ですが、普通に考えれば申請通りの材料が使われている事は当たりです。
ポイントは、この検査は「施工の良し悪し」を検査する為の検査ではない・・という点です。
つまり、等級の判定は仕様の違いによって機械的に付与されるものであり、基準を満たす材料を使用していれば、施工のレベルによらず等級は取得できます。
等級が高ければ品質が高い家だとは必ずしも言えないのは、まさにこの点です。
もちろん、仕様が良くなれば性能は良くなります。
ただし、その性能が発揮できるかどうかは、施工もセットで考えなければいけません。
住宅性能評価の制度では、施工の良し悪しについては全く考慮されていません。
「すべてが間違っているとは思いませんが、半分くらいおかしいと思っている。」・・と書いたのはその為です。
仕様の違いによる性能の差は、施工品質の違いによって簡単に覆る。
下の図は、断熱材の施工状態によって断熱性能がどれくらい変化するのかを調べたものです。
100mmの厚みの断熱材に対し、100mmの性能を発揮できるのが良い施工状態だとして・・・
押し込みすぎの施工では、16%〜54%性能がダウン。
隙間がある施工では、33%性能がダウン・・・という調査結果です。
断熱材のグレードや厚さを1つ上げる事によって10%ほど性能が向上しますが、その性能差は施工レベルの違いによって簡単に覆ってしまう事がわかります。
こんな高品質な断熱材を使っているから断熱性能が高いんです。
とか、
断熱等級が最高レベルなので、断熱性能が高いです。
というようなトークは、半分くらい間違っていると思うのです。
実際の断熱性能は、「断熱材の性能」と「施工品質」の両方によって決まります。
「耐震金物の施工」についてもまったく同じ事が言えます。
これも、日経ホームビルダーが実験データを公開していました。
詳しくは別の記事にまとめていますので・・
↑こちらの記事をご覧下さい。
家づくりはかなりアナログな世界。
経験も年齢も違う職人さん達によって
ひとつひとつの工程を手造りで造られる。
住宅で使われている断熱材や構造金物は工業製品ですから、仕様によって性能は一定と言っても良いでしょう。
今や、構造用の木材も計算可能な工業製品。
最もバラツキが生じるのは施工です。
ロボットによって製造ライン上で作られる精密機械であれば、ほぼ一定の組み立て精度で製品を作れます。
そのような製品であれば、仕様の差=品質の差・・・と言えますが、住宅は違います。
住宅は手造りです。そして、造る職人さんは経験も年齢も様々。
悪意を持って家を造る職人さんはいないと思いますが、造ってるのは人ですから、施工の精度や知識は異なります。
ミスや忘れなどのエラーが発生する確率もロボットに比べると比較にならない程高いでしょう。
前提として、住宅はそのような性質の商品です。
つまり、それを前提に品質を考える必要があるという事です。
仕様の違いだけで品質を定義したり管理する事はできません。
施工の話を抜きにして品質や性能を語る事は本来できないはずです。
それを踏まえて、等級制度に対して半分否定的な当社がどのような取り組みをしているのかを次の記事でお話しします。
なぜこの制度が広く利用されているのか。
冒頭でも触れたとおり、今やこの制度を利用した品質の訴求は非常に多く行われています。
これだけ世に広まり利用されている理由は何か、主観的な憶測ではありますが個人的に思う事を書きます。
一言で言うと、「わかりやすさ」だと思います。
説明する側にとっても、説明される側にとってもわかりやすい制度です。
住宅の性能を通知表のようにカテゴリーごとにランク付けして表示する事で、まず専門知識を持たない買主にとっては圧倒的にわかりやすいです。
ですが、売主にとってもこの「わかりやすさ」はとても重要なのです。
一般的には離職率が非常に高いこの業界。住宅営業の世界では営業マンは必ずしも専門家ではありません。
自分が在籍していた会社では、1年続いたら長いほうでした。
人が入ってもすぐ辞めてしまう業界です。
転職して間もない知識や経験が浅い人材を即戦力として活用しなければいけません。
住宅の性能についてお墨付きを得られるこの制度を利用すれば、説明が非常にシンプルになります。知識や経験は必要ありません。
そして、実際にそれが一番簡単にお客さんの支持を得られる方法なのですから、それは利用されるでしょう。
シンプルに良さを伝えなければいけない「広告」を考える上でも非常に便利な制度です。
話のわかりやすさや広告映え、マーケティングに関する都合によるものが大きいのだと個人的には考えています。
しかし、自分にとってはどうも本質的ではない制度のように感じてしまうのです。
次の記事:品質に対する価値観と取り組み2 〜 住宅の品質を高める為に必要な事 〜
株式会社ミキプランニング
代表取締役 佐藤 幹展