同じ商品を大量に生産する産業ならともかく、同じ商品を2つとして扱わない分譲事業者は、その規模が大きくなればなるほど、自社の商品へのこだわりを貫くことが難しくなってゆきます。そのジレンマから逃れる事は非常に難しいのです。
私が過去に在籍していた不動産会社がまさにそうでしたので、確信をもってそう思えるのです。
それはなぜか。
1、運転資金を捻出する為に、常に土地を仕入つづけなければならない
大きな会社というのは、もちろん、多くの従業員を抱え、大きな事務所を借りなければいけません。
それを維持するだけでも、多大な運転資金を要します。
いくら良い土地が出なくても、
いくら景気が後退していても、土地の仕入れを止めることはできません。
それなりの数の土地を仕入れ、商品化し、販売しなければ会社を維持してゆくことができません。
そうすると、必然的に厳しい仕入ノルマが課せられることになります。
たくさんの土地を期限までになんとしても仕入れなければいけません。
良い土地だけを厳選して仕入れたい気持ちは山々ですが、そうは言っていられません。
仕入ノルマを達成する事が最優先です。なぜなら、仕入の数が売上に直結するからです。
「良い物件だから買う」というのは、仕入ノルマを達成する為、つまり、稟議を通す為の作文です。
ここで重要な事は、「そもそも、良い物件というのは絶対数が限られている」という事実です。
実際、角地はひとつのブロックに4つしか存在しませんし、駅からの距離は近くなればなるほど、その物件数は加速度的に少なくなります。
大手分譲事業者であれば、年間1000棟規模で土地の仕入れをしている訳ですが、これだけの数の仕入ノルマをこなしながら、限られた土地だけを厳選して仕入れることは絶対にできません。良い物件はそもそも希少で絶対数が少ないのです。
冷静に自分自身の土地に対する価値観と照らし合わせてみれば、その物件は良い物件だと言えないことは明白でも、営業マンとして仕入の契約を取らなければいけない事情があります。
そんな状況の中で、土地という特殊な商品を扱う以上「数」と「質」を同時に実現することは非常に困難だということを痛感すると同時に、大いに疑問を感じたものです。
2、商品力だけで売りづらい商品は、営業力によって売らなければならない。
次に、そのように仕入れられた物件をどう販売するか?という問題が出てきます。
物件を厳選できない以上、商品の力によって販売することは難しい。
そうなると、営業マンをたくさん雇って、営業マンとその数の力によって売るという事になります。
しつこい電話営業やアポなしの訪問営業という営業スタイルとなる会社も多い訳です。
立派なオフィスと広告がそれらの営業マンの後押しをするという構図です。
もちろん、たくさんの営業マンや立派なオフィスや広告の存在は、運転資金・固定費の増加の直接的な原因となる訳で、土地の仕入ノルマはより一層厳しくなる訳です。
大きな規模の会社は、このスパイラルから抜け出すことは難しいと思っています。
そんな訳ですので、物件を販売する営業マンは、自分が取り扱っている物件を自分自身良い物件だと思っていない事が多かったりします。
むしろ、「この売りづらい物件を売ってこそ、営業の価値だ」と思っていたりします。
そのような体制の会社であればあるほど、営業マンのトークが「いかにも営業トーク」という感じで聞こえるから不思議です。。
3、ひとつひとつの物件にかけられる情熱や時間が少ない。
これは、すべての会社がそうとは言えませんが、傾向としては会社の規模が大きくなればなるほど、仕様や設計のパターンがあらかじめ決められていて、ひとつひとつの物件に対して個別に検討する機会が少ないと思います。
ある大手分譲住宅会社では、あらかじめ決められた間取りを敷地の間口や地形にあわせて選んで配置するだけ、という話も聞いたことがあります。
自分にはとても信じられません。
その後私が入社した会社は、あまり大きな規模でない地元密着の会社でした。
もちろん、少人数体制の会社です。
営業マンは私だけという時代も結構ありました。
良い物件があれば、買います。
良い物件がなければ、買いません。
よって、半年近く販売する物件がないという時期もありました。
良い物件が出なかったから買わなかっただけですが、それは大きな規模の会社には決してできない選択です。
もともとスリムな体制の会社ですので、会社を維持する程の物件量であれば、いくら物件が少ない時期でも質を落とさずに仕入をすることができます。
ただし、その分仕入を厳選していますので、仕入の大変さはあまり変わりません。
仕入れた物件は、自分自身が本当に良いと思える厳選した物件ばかりでしたので、営業マンがたとえ私だけでも、苦労することなく販売する事ができます。
もちろん、突拍子もない電話営業をしたり、アポなしで訪問営業をしたりすることは絶対にありませんでした。
良いと思える土地を買い、良いと思える建物を建て、その物件の良さを、また、なぜそれが良いのかをお客様にお伝えする事に全力を注ぎます。
すると、お客様はこちらから営業をしなくても、お問い合わせをしてきて下さいます。
そして、物件を実際にご覧頂ければ、その良さを評価して頂くことができました。
よって、たくさんの営業マンや立派なモデルルームや広告などのように、物件の本質以外のものに多くの経費をかける必要がありませんでした。
そのような省エネ体制ですから、物件量が少なくても、会社の経費を十分に賄うことができていました。
結果、良い物件だけを厳選して仕入れ、物件の本質的な価値に関わる物事に経費をかける事ができていました。
良い商品を造り、提供することありきで、利益や会社の規模はあくまでもその結果だという考え方の会社でした。
数を求めることで回るしくみではなく、質を求めることで回るしくみを実現できていた会社でした。
これは、土地を扱う分譲住宅事業において、大きな規模の会社では決して真似できません。
以前在籍していた会社があまりにも自分の理想とかけ離れていた為、その真逆の会社に在籍してみたら、ほぼ自分の理想とする通りだったという訳です。
今、私自身が目指しているのも、このような方向性、価値観の会社です。
とにかく、自分の理想とする物件、自分自身が心から良いと思える物件だけを手掛けていきたいと思っています。
その為に、間取りや照明計画、収納計画をはじめ、細部の造作に至るまで、自分自身が納得できるまで検討を重ねる時間も必要です。
なので、物件数は少なくても構いません。
売上や利益は、結果としてついてくるものであり、先に売上や利益ありきで物件を仕入れたりする事はしたくありません。
その為にも、派手なショールームやオフィスを持つことも、物件の販売だけをする営業マンを雇う事は、これからもしないと思います。
それをしてしまった時点で、売上や利益先にありきで、仕入ノルマを設定しなければいけなくなるからです。
実際、当社の事務所は普通のマンション内にあります。一部業務のアウトソーシングをしておりますが、営業マンも雇わず、代表である自分自身だけのスリムな体制の会社です。
よって、土地の仕入から間取りの決定、仕様の決定、お客様への営業活動まで、すべてを一貫して自分自身が関わっています。
それは、そのような動機・理由があって、そのようにしているのです。
また、それは今後も大きく変わることはないだろうと思っていますし、そうあり続ける事を望んでいます。
今日はとても長いお話になってしまいましたが、最後まで読んで頂いた方はいるのでしょうか・・・・?
株式会社ミキプランニング
代表取締役 佐藤 幹展