最近では、分譲住宅においてもオープンキッチンの間取りが主流になりつつあるようです。
しかし、ミキプランニングでは分譲住宅にオープンキッチンを採用する事はまずありません。
それにはたくさんの理由があります。
最も大きな理由として・・・僕自身、分譲住宅に求められるのは「誰が使っても使いやすい汎用性の高い間取り」だと思っているからです。
「汎用性の高い間取りは多くの人にとって長く快適に生活できる間取りでもあり、資産価値の高い間取りでもある」・・・とも考えています。
そのような意味で、個人的には分譲住宅でオープンキッチンやアイランドキッチンを採用する事はありません。
オープンキッチンやアイランドキッチンは誰にとっても使いやすいキッチンではないからです。
キッチンは収納がたくさん必要な箇所ですが、吊戸棚が付けられず、収納に利用できる壁面も少ない。つまり、収納を確保する事が難しいキッチンです。
油や水がダイニングのほうまで飛び跳ねて、お掃除が大変なキッチンです。
キッチンは、毎日朝も昼も夜も使う場所ですが、常に片付いている状態を求められます。
常にキレイに片付けておかないと、ショールームで見たような生活感を排除したオシャレな空間をイメージしたつもりが、生活感がむしろ強調された印象の空間となってしまうでしょう。
つまり、「住まい手に求められるハードルがかなり高いキッチン」です。
「使う人に覚悟が求められるキッチン」とも言えるでしょう。
使う人に「見せる事を楽しむことができるかどうか」・・・も、問われるのではないでしょうか。インテリアが好きな人であれば、キレイに片付いたリビングやキッチンを維持する事はさほど苦にならないでしょう。しかし、そうでない人も多でしょう。
逆に、設計をする側にも「綿密な計画」が求められるのがアイランドキッチンです。
住まい手に求められるハードルは確かに高くとも、設計する側としては「最小限の労力で、最大限に片付くようになる工夫」が必要です。
しっかりと収納を確保する為に、また、生活感を極力なくし、アイランドキッチンを本来のイメージ通りのものとする為には、平面的な面積のゆとりも必要でしょう。
「なんとなくカッコいいから・・・という理由で採用する事など許されないキッチン」だと思っています。
住まわれる人が決まっている注文住宅では、住まう人の性格や物の量を踏まえ、打ち合わせを経る事でそれらのハードルを乗り超える事もできるでしょう。
しかし、それを分譲住宅で採用しようというのは・・・・つまり、「アイランドキッチンの覚悟」を不特定多数のお客様に対して一方的に求めるという事を意味する訳で、それはある意味すごい事だと思う訳です。
分譲住宅や分譲マンションの世界では、アイランドキッチンやオープンキッチンを設置し、それをキャッチコピーにしている事が多いような気がします。
不特定多数のお客様を対象にする分譲住宅なのに、何の工夫も背景もなくただ置いただけのアイランドキッチンを、お客様に覚悟を求める訳でもなく、イメージを演出する為に計画し、それを宣伝文句とする。
そのような物件を見るたびに軽薄だなぁと思うし、自分が造りたいのはこれと正反対の家なんだなと思うのです。
ミキプランニングでは、分譲住宅でキッチンを計画する時には、フルオープンにはせず必ず立ち上がりを設けるようにしています。
それにはいろいろな理由や考えがあります。
それを順番にご紹介したいと思います。
キッチンの手元には隠したい物がたくさん。
↑ 松栄小学校南の家 半独立式対面キッチン カウンターより約20センチの高さの立ち上がりを設ける事によって、キッチンの手元を隠すように。
立ち上がりを設けたい最大の理由は、キッチンの手元を隠したいから。
物が少ない人・使った物はその都度片付ける人・掃除が好きな人は問題にならない事かもしれませんが、我が家も含めてそのような人ばかりではないはずです。
僕自身は、使用頻度が高い物は取り出しやすく仕舞いやすい場所に収納する、場合によっては出しっぱなしにしておくほうが便利だし、そうしておいても乱雑さを感じさせないようにするのがベストだと考えています。
そうなると、キッチンカウンターまわりには常時置いておきたい物があるはずです。
立ち上がりを設けたほうが良いと考えているのはそのような理由からです。
それに、キッチンの使い方は人それぞれ。使用頻度が高いもの、手の届く場所に置いておきたいものも人それぞれです。
また、時と場合によって(又は使う人によって)、常にキレイに片付いているとは限りません。
キレイにする事に対して神経質にならなくても、機能を最優先した使い方をしても、、この立ち上がりがある事によって色々な人の色々な使い方を許容してくれます。
そこに生活があるのなら、生活感が出るのはあたりまえです。
生活の利便性を損なってまで生活感を無くす、見た目の良さを優先するという考え方は、少し自分の考えとは違います。
キッチンには立ち上がりを設ける事が、少なくとも分譲住宅においては普遍的で汎用性の高い、最もバランスの取れた解答なのではないかと考えています。
立ち上がりの高さは水切りカゴが隠れる高さ。
「フルオープンキッチンのジレンマ」それを感じる代表格は「水切りカゴ」です。
いろいろな人が水切りカゴを無くす為にそのかわりになる方法を試行錯誤していますが、機能性だけならやはり水切りカゴが優れています。
食洗機を使うという方法もありますが、全ての方が食洗機派とも限りません。
我が家でももちろん食洗機を使う事もありますが、多くの場合手洗いのみ、もしくは手洗いと食洗機併用です。
一般的な大きさの食洗機では、洗い物が多い時は食洗機だけではカバーできません。
少量の洗い物であれば手洗いしてしまったほうが早い。
そうなるとやっぱり水切りカゴはあったほうが良い・・少なくとも分譲住宅という不特定多数の方に対しての汎用性の高い解答としては、「水切りカゴを使用」だと、僕自身は感じています。
ミキプランニングでは「水切りカゴが隠れる高さ」を、キッチン立ち上がり寸法の基準とし、約20センチで計画する事が多いです。
立ち上がり部を利用して、収納を設けられる。
↑ 千種区南明町 佐藤自宅
恥ずかしながら我が家の写真。
背景にうっすら見えるゴム手袋。使い終わった後に濡れている物なので、これもオープンキッチンでは収納方法に困るものの1つではないでしょうか。
我が家ではスポンジホルダーにペッと引っ掛けて完了。
ピッチャーやボトルを洗う棒状のスポンジ。これもよく使うものなので、スポンジホルダーに差しっぱなし。
いずれも、立ち上がりがあるおかげでリビング側からは見えません。
本題はキッチンペーパーと台ふきん。
キッチンペーパーの使用頻度はみなさん高いはず。
使いたいと思った時に手が濡れていたり汚れている事も。
そのような時に扉や引き出しを開けて取り出して・・・なんて、多くの人はしたくないのではないでしょうか。
そうすると、すぐ手が届く場所に常に置いておきたいものです。
キッチンに立ち上がりがあると、その高さを利用して、写真にあるような金物を取り付ける事ができます。
ミキプランニングでは標準仕様として採用しているものです。
何が良いかって、まず、すぐに手が届く使いやすい場所にキッチンペーパーが常時スタンバイしている事。
次に、宙に浮いている事。キッチンペーパーは、調理中濡れている事も多いカウンターの上には一時的にでも置きたくないものです。
宙に浮いている事で、キッチンカウンターの上の場所を取らず、掃除もしやすい。
それに、トイレットペーパーのように使えるので、使い勝手が非常に良いです。
ペーパーホルダーの奥に写っているふきんかけも便利です。
ふきんを干す場所としては宙に浮いている必要がありますが、この立ち上がりと金物があるおかげで、スペースを犠牲にせず最も自然で使いやすい場所に収納する事ができています。
もちろん、ペーパーホルダーもふきんかけも、リビング側からは見えません。
写真には写っていませんが、、この立ち上がり部にはミキサーなどの調理器具を使う為の電源も設置されています。
キッチンペーパーやふきんの収納場所についても「オープンキッチンのジレンマ」ですが、電源についても苦労されている人が多いようです。
ダイニング側から使える収納棚を造作できる。
↑ 千種区南明町 佐藤自宅
キッチンに立ち上がりを設ける事で、反対側のダイニングから使える収納棚を造作できます。
我が家では、ティッシュ置き場になっています。
置いてあるのは、大人が使う普通のティッシュ、子供が使うちょっと良いテッシュ。それにウェットティッシュ(おしり拭き)です。
小さな子供がいるので、ダイニングに座ったままティッシュやおしり拭きに手が届くのが非常に便利。
このようなスペースがあると、テーブルの上がスッキリします。
このスペースには電源も設置しますので、携帯電話を充電したりもしています。
小さな子供の手が届きにくい高さに配膳カウンターを設置できる。
↑ 瑞穂公園西の家 やかんが乗っている箇所です。
よほど寸法的に余裕がない時を除き・・
キッチンの立ち上がりの上部は配膳カウンターとして、また、キッチン作業台の延長としての物の置き場所として使いやすくなるように少し広めの寸法にします。
寸法は物件によって様々ですが、写真にあるようなトレイや大きめのお皿が安定して置けるような、また、お鍋の一時的な置き場になる寸法で計画します。
このカウンターは、キッチンの天板より20センチの立ち上がりを設け、105センチの高さで計画する事が多いですが、この高さは「小さな子供の手が届きにくい高さ」になります。
お皿などの割れ物が置かれる事が多い配膳スペースとしては、これくらいの高さがあるほうが安全で安心です。
オープンキッチンをつくる場合。その実例。
↑ 注文住宅で造作したオーダーキッチン 天井についているのは「うんてい」です。
注文住宅でオープンキッチンを提案する場合には、大型深形シンクで中に水切りカゴ機能をインストールできるもの。もしくは、大容量の食器洗浄乾燥機の採用をオススメしています。
こちらのお家では、大容量の食器洗浄乾燥機を採用しました。
アイランド型ですので対面部分は意匠性を重視しています。
動線を最小限にする為に、対面部には洗い物専用のシンクを設置、水栓金物はどこから見ても美しく存在感があるドイツのグローエ社のものを採用。
ダブルシンク仕様なので、背面部のシンクは調理専用です。
濡れた物の対面部と背面部の横断がなくなるので床に水滴が落ちる事を防ぐ事ができます。
また、複数の人でキッチンを使う時にはダブルシンクがさらに活きてくるでしょう。
ダイニングテーブルはキッチンと一体の造りつけ。足の存在感を少なくする為に持ち出し構造にしています。
角度によっては、天板が浮いているように見えるキレイな納まりですが、椅子に座っている時に足元が窮屈にならないという良さもあります。
テーブルの上には分譲住宅でも採用している照明BOXを造作。
照明器具も雰囲気に合うものをいくつかご提案しながら選びました。
天井にはテーブルと同じオーク材を使用し、建築とキッチンの一体感を出しています。
背面部分にはしっかりと収納を設ける事。また、リビングから見えづらい場所にパントリーを設ける事は必ずご提案します。
こちらのお家もウォークイン型のパントリーをキッチン脇につくり、その中に雑多なものや冷蔵庫・オーブンレンジなどの家電製品を収納できるようにしました。
そのような仕分けを行う事でスッキリ整った印象のキッチンを維持しやすいようにしています。
キッチンペーパーホルダーは吊り戸棚の内部に造り、すぐ手が届く場所にあり、かつ、見栄えを損なわないようにしています。
油はねを最小限にするために、ガスコンロは背面の壁際に設置し、調理用シンクをその脇に。
タイルはお手入れがしやすい大きめのものを採用し、目地はメンテナンス性の高いものを選択しました。
写真ではわかりづらいですが、タイルは表面がわずかに波打った表情のあるものを使用しています。
背面の吊り戸棚内部に作業等となる照明を納めており、その光がタイルに当たる事によって、タイルの表情が程よく浮き出るようにしています。
天井の線状の照明器具がメインの明かりですが、存在感を最小にするため、小型の器具を天井のスリットに埋めこんで施工しています。
株式会社ミキプランニング
代表取締役 佐藤 幹展